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東北大学電気通信研究機構

安達文幸

安達文幸

電気通信研究機構
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目次

研究概要(2016年4月から)

 東北大学電気通信研究機構に無線信号処理研究グループ(Wireless Signal Processing Research Group)を組織し,第5世代方式の実現に向けた分散アンテナ協調無線通信技術および自律分散学習による無線資源管理技術の研究開発を行っている.

 分散アンテナ協調無線通信技術に関する主な研究テーマは面的スペクトル利用効率およびエネルギー利用効率の同時向上を目指したもので,具体的には時空間符号化ダイバーシチ,マルチユーザ空間多重,送信信号ピーク対平均電力比(PAPR)抑圧,マルチユーザスケジューリング(または2次元動的資源割り当て),チャネル等化,チャネル推定などである.

分散MIMO協調伝送(下りリンク)

最近の研究成果は下記文献にまとめられている.

  1. F. Adachi, K. Takeda, T. Obara, T. Yamamoto, and H. Matsuda, “Recent advances in single-carrier frequency-domain equalization and distributed antenna network,” IEICE Trans. Fundamentals, Vol.E93-A, No.11, pp.2201-2211, Nov. 2010.
  2. F. Adachi, K. Takeda, T. Yamamoto, R. Matsukawa, and S. Kumagai, “Recent advances in single-carrier distributed antenna network,” Wireless Commun. and Mobile Computing, Volume 11, Issue 12, pp. 1551-1563, Dec. 2011, DOI: 10.1002/wcm.1212.
  3. F. Adachi, W. Peng, T. Obara, T. Yamamoto, R. Matsukawa and M. Nakada, “Distributed antenna network for gigabit wireless access,” International Journal of Electronics and Communications (AEUE), Vol. 66, Issue 6, pp.605-612, 2012.
  4. F. Adachi, A. Boonkajay, Y. Seki, T. Saito, S. Kumagai, and H. Miyazaki, “Cooperative Distributed Antenna Transmission for 5G Mobile Communications Network,” IEICE Trans., Vol.E100-B, No.8, pp.-, Aug. 2017. http://doi.org/10.1587/transcom.2016FGP0019.

 自律分散学習による無線資源管理技術に関する主な研究テーマは,各基地局が自律して干渉環境を学習して干渉を回避するチャネル配置およびゲーム理論を適用して要求トラフィックレベルに応じて基地局をオンオフする基地局オンオフ制御である.これは,高密度ネットワークのスペクトルおよびエネルギー利用効率の画期的な向上を実現するものとして大いに期待される.

無線資源管理アルゴリズムの基本フロー

最近の研究成果は下記文献にまとめられている.

  1. A. Mehbodniya and F. Adachi, “Decentralized Radio Resource Management for Dense Heterogeneous Wireless Networks,” Chap. 5 in Vincent W. S. Wong, et al.,“Key Technologies for 5G Wireless Systems” (ISBN: 9781107172418), Cambridge University Press, March 2017.
  2. Ren Sugai, Abolfazl Mehbodniya and Fumiyuki Adachi, “Interference-Aware Channel Segregation based Dynamic Channel Assignment in HetNet,” IEICE Communications Express (Advance Publication), May 27, 2016. DOI: http://doi.org/10.1587/comex.2016XBL0078.

2016年3月までの研究概要

まえがき

 将来の超高速無線ネットワークでは,100Mbps~1Gbpsの超高速伝送が要求されています.私たちは,このような超高速無線ネットワークを実現するためのギガビット無線通信技術を研究しています.「無線信号処理」と「無線ネットワーク」の2つの大きな研究分野をカバーしています.

 無線信号処理分野の研究課題は,厳しい周波数選択性フェージングの克服です.周波数選択性フェージングを克服するために,私たちはマルチキャリアCDMA(MC-CDMA),直接拡散CDMA(DS-CDMA)に関する,周波数等化,時空間符号化送信ダイバーシチ,ターボ符号化,ハイブリッドARQ,送信電力制御,適応チャネル推定などについて研究しています.

 無線ネットワーク分野では,超高速伝送で問題となるピーク送信電力増加を抑えるバーチャルセルラシステムを提案しています.バーチャルセルラシステムは,分散配置される多数の無線ポートとネットワークへのゲートウェイとなる中央無線ポート(既存セルラシステムの基地局に対応しています)から構成されます.移動端末近傍の無線ポートで受信された信号を中央無線ポートに転送する無線マルチホップ,マルチホップ経路構築,ダイナミックリソース(電力,周波数)割当などについて研究しています.

無線信号処理

研究課題


周波数領域等化

 従来の直接拡散CDMA(DS-CDMA)システムではRake受信が使われていますが,伝搬路のパス数が増加するとパス間干渉によりビット誤り率(BER)特性が著しく劣化します.そこで,符号の直交性の再生と周波数ダイバーシチ効果を得るために,マルチキャリアCDMA(MC-CDMA)で使用されている周波数等化をDS-CDMAに適用することを提案しています [1,2,3].

  1. F. Adachi, T. Sao, and T. Itagaki, “Performance of multicode DS-CDMA using frequency domain equalization in a frequency selective fading channel,” IEE Electronics Letters, vol. 39, No.2, pp. 239-241, Jan. 2003.
  2. T. Itagaki and F. Adachi, “Joint frequency-domain equalization and antenna diversity combining for orthogonal multicode DS-CDMA signal transmissions in a frequency-selective fading channel,” Proc. 6th International Symposium on Wireless Personal Multimedia Communications (WPMC), vol.1, pp.285-289, Yokosuka, Japan, 19-22 Oct. 2003.
  3. T. Itagaki, T. Sao, D. Garg, and F. Adachi, ” Chip interleaved multicode DS-CDMA with MMSEC in a frequency nonselective fading channel,” IEICE Trans. Commun., vol. E87-B, No. 1, pp.79-87, Jan. 2004.

ハイブリッド自動再送 (HARQ)

 超高速無線パケット通信は,第4世代移動通信システムにおいて重要な技術です. 誤り制御技術(誤り訂正(FEC),自動再送(ARQ))は,無線パケット通信では 不可欠です.そこで,DS-CDMA,MC-CDMAとOFDMパケット無線伝送におけるターボ符号 化ハイブリッドARQのスループット特性を求め,TypeⅡARQが最も優れることを明らか にしました[1,2].

  1. D. Garg, R. Kimura, and F. Adachi, “RCPT hybrid ARQ with limited number of retransmissions in a DS-CDMA mobile radio,” IEE Electronics Letters, vol. 39, No.2, pp. 241-242, Jan. 2003.
  2. D. Garg and F. Adachi, “Application of rate compatible punctured turbo coded hybrid ARQ to MC-CDMA mobile radio,” Proc. 8th International Conference on Cellular and Intelligent Communications (CIC), p.364, Seoul, Korea, 28-31 Oct. 2003.


送受信ダイバーシチ

 周波数等化を用いる直接拡散CDMA(DS-CDMA)は,Rake受信を用いるDS-CDMAより優れたビット誤り率(BER)特性を示すことができます.更なるBER特性の向上には,複数送受信アンテナダイバーシチを用いることが有効です.そこで,Alamoutiの時空間符号化送信ダイバーシチに周波数等化を組み合わせ,BER特性を明らかにしました [1,2].

  1. K. Takeda, T. Itagaki, and F. Adachi, “Joint frequency-domain equalization and multiple transmit/receive antenna diversity for DS-CDMA,” Proc. The 1st IEEE VTS Asia Pacific Wireless Communications Symposium (APWCS), pp.144-147, Hoam Convention Center, Seoul National University, Seoul, Korea, 8-9 Jan. 2004.
  2. K. Takeda, T. Itagaki, and F. Adachi, “Space-time transmit diversity combined with frequency-domain equalization for single-carrier transmission,” Proc. 6th International Symposium on Wireless Personal Multimedia Communications (WPMC), vol.3, pp.390-394, Yokosuka, Japan, 19-22 Oct. 2003.


送信電力制御

 無線パケット通信では,衝突した複数のパケット間の受信電力差が大きい場合には受信電力の大きなパケットの伝送は成功するというキャプチャ効果が得られ,衝突によるスループット低下を緩和できることが知られています.ところで,DS-CDMAでは,マルチパスフェージングを抑圧するためにRake受信と送信電力制御(TPC)を用いることが必須です.低速TPCではキャプチャ効果が得られるので高速TPCよりも容量を大きくできますが,伝搬パス数が大きくなると受信電力変動が小さくなりキャプチャ効果が期待できなくなり,容量が劣化します.そこで,私たちは受信電力ターゲット値に強制的にゆらぎを与えてキャプチャ効果を得るランダムTPC法を提案しています [1,2].

  1. Z. Wang, E. Kudoh, and F. Adachi, “Uplink link capacity of DS-CDMA packet mobile communications with Rake combining and transmit power control,” IEICE Trans. Commun., vol. E86-B, no.7, pp. 2203-2206, July 2003.
  2. Z. S. Wang, E. Kudoh, and F. Adachi, “Transmit power control using probabilistic target for DS-CDMA packet mobile radio,” Proc. 6th International Symposium on Wireless Personal Multimedia Communications (WPMC), vol.3, pp.266-270, Yokosuka, Japan, 19-22 Oct. 2003.


チャネル推定

 同期検波を用いるOFDMでは,高精度のチャネルが必要です.しかし,送受信機間のマルチパス伝搬路状態が時間とともに変化するため,時間不変のタップ係数を用いるチャネル推定では常に誤り率(BER)を最小化できません.そこで,伝搬環境の変化に適応するために,周波数領域予測フィルタをチャネル推定に組みこむことを提案しています [1].

  1. S. Takaoka and F. Adachi, “Adaptive prediction iterative channel estimation for OFDM signal reception in a frequency selective fading channel,” Proc. 57th IEEE Vehicular Technology Conference (VTC), pp. 1576-1580, Jeju, Korea, 22-25 April, 2003.


フェージングシミュレータ

 最近,ダイバーシチ,適応アレーや多重などのMIMOアンテナシステムが注目を集めて います.MIMOアンテナシステムを用いるときのディジタル伝送特性は,各アンテナ素 子の指向性ばかりでなく,多重波を構成する素波の到来角,強度,遅延時間やドップ ラーシフトの分布に大きく依存します.私たちは数学的な多重波伝搬モデルに基づい て,多重波の到来角や角度広がり,さらに,散乱体の位置,移動方向などのパラメー タの設定・変更が容易にできるフェージングシミュレータを作製しています[1].

  1. 大國英徳,工藤栄亮, 安達文幸, “任意の多重波到来角分布のフェージング波を発生する周波数選択性フェージングシミュレータ,” 第5回DSP教育者会議, pp.55-60, 2002年9月.



無線ネットワーク

研究課題

現在のセルラーシステムの問題点

 高速無線伝送を実現するにはピーク送信電力の増大という非常に困難な課題を克服しなければなりません.ピーク送信電力を低減するにはセルサイズを小さくすることが有効ですが,現在のセルラシステムのセルサイズを単純に極小セルとするだけでは,ハンドオーバや位置登録等の制御が膨大となります.このような問題点を克服するために我々はバーチャルセルラシステムを提案しています [1,2].

  1. F. Adachi, “Wireless past and future – evolving mobile communications systems,” IEICE Trans. Fundamentals, vol. E84-A, pp.55-60, Jan. 2001.
  2. E. Kudoh and F. Adachi, “Power and frequency efficient virtual cellular network,” Proc. 57th IEEE Vehicular Technology Conference (VTC), pp.2485-2489, Jeju, Korea, 22-25 April, 2003.

バーチャルセルラーシステム

 バーチャルセルラシステムは,分散配置される多数の無線ポートとネットワークへのゲートウェイとなる(既存セルラシステムの基地局に対応する)中央無線ポートからなります.移動端末は多くの無線ポートと同時に通信を行います.
 もしも全ての無線ポートが中央無線ポートと直接通信すれば,パスロス,シャドウィングロス,マルチパスフェージングの影響により非常に大きな送信電力を必要とする無線ポートが生じます.このような送信電力の増大を避けるためにマルチホップ無線通信の適用が考えられます.マルチホップ通信を制御するために,データリンク層とネットワーク層の間にバーチャルセルラ制御層を挿入します [1].

  1. E. Kudoh and F. Adachi, “Power and frequency efficient virtual cellular network,” Proc. 57th IEEE Vehicular Technology Conference (VTC), pp.2485-2489, Jeju, Korea, 22-25 April, 2003.


マルチホップ通信における経路構築と分散チャネル割当

 複数の無線局を経由して伝送する通信方法が無線マルチホップ通信です. 移動端末の近傍の無線ポートで受信された信号は中央無線ポートへ転送されて合成さ れます.各無線ポートが直接中央無線ポートと通信しようとすると,大きな送信電力 が必要な無線ポートが生じてしまいますから,他の無線ポートを経由する無線マルチ ホップ通信を用いて中央無線ポートへ転送します.私たちは,総送信電力が最小とな るようなマルチホップ経路構築法を提案しています.マルチホップ経路を決定した後 に,チャネル棲み分け法を適用した,マルチホップ通信経路のチャネル割当を行いま す [1,2].

  1. E. Kudoh and F. Adachi, “Study of a multi-hop communication in a virtual cellular system,” Proc. 6th International Symposium on Wireless Personal Multimedia Communications (WPMC), vol.3, pp.261-265, Yokosuka, Japan, 19-22 Oct. 2003.
  2. 工藤栄亮, 安達文幸, “マルチパスフェージング環境下におけるマルチホップ バーチャルセルラ自律分散型チャネル割当て法の特性,” 信学技報, RCS2003-??, pp.??, 2004年3月.


送信電力効率と周波数繰返し距離

 バーチャルセルラシステムにおける送信電力効率,周波数繰返し距離について計算機シミュレーションにより明らかにしました.その結果,バーチャルセルラシステムは従来のセルラシステムに較べ,平均送信電力を著しく低減でき,周波数繰り返し距離を短くできることを示しました.さらに,バーチャルセルラシステムではOFDM,TDMA,FDMA等のどのアクセス方式を用いても,同一無線周波数を同一バーチャルセル内で再利用できる可能性があることを示しました [1,2].

  1. E. Kudoh and F. Adachi, “Power and frequency efficient virtual cellular network,” Proc. 57th IEEE Vehicular Technology Conference (VTC), pp.2485-2489, Jeju, Korea, 22-25 April, 2003.
  2. E. Kudoh and F. Adachi, “Transmit power efficiency of a multi-hop virtual cellular system,” Proc. 58th IEEE Vehicular Technology Conference (VTC), Orlando, Florida, USA, 6-9 Oct. 2003.



東北大学電気通信研究機構

無線信号処理研究グループ

〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平二丁目1-1

Wireless Signal Processing Research Group

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